舞台は、戦時下の架空の国・イズモ。
あらゆる言葉が検閲され、行動が制限され、誰かが誰かを監視している時代。
その片隅に、ひっそりと開いている喫茶店――『ワンダフルワールド』。

ここには、傷ついた人々がやってくる。
兵役から逃れた青年。働き始めた少女。元歌手の女、無職の男、娼婦、誰にも言えない秘密を抱えた人々。
彼らが交わすのは、ささやかな会話と、たった一杯のコーヒー。

店の外では銃声が鳴り、誰かが「正しい言葉」を強要する。
けれどこの店の中だけは、少しだけ息ができる場所。
ここで交わされる声が、笑いが、音楽が、やがて”世界”にささやかな抵抗を投げかけていく。

見どころは、“戦争の空気”と“日常の温度”が同時に存在する、その静かな緊張感とやさしさ。
社会の歪みが浮き彫りになっていく一方で、登場人物たちのやりとりがときにユーモラスで、ほっとさせられる。
どんな時代にも“人間らしさ”は絶対に消えない――そう感じさせてくれる。

そして、登場人物たちの想いをすくい上げるのは、ひとりの少女・ミライ。
彼女の目を通して見えるこの世界は、どこまでもまっすぐで、どこか祈りにも似ている。